これは旧バージョンの Overleaf v1 に関する古い記事です。最新の v2 に対応した更新版記事「Overleaf v2 で日本語を使用する方法」が公開されています。
Overleaf(旧writeLaTeX) は,オンラインで使える LaTeX 原稿執筆環境として非常に便利です。自分のマシン内に TeX 環境を構築するのは一手間二手間かかりますし,インストールする権限がない場合や,出先の端末を使う場合などにも,環境整備の必要なくブラウザのみですぐに LaTeX 原稿を執筆できるのは好都合でしょう。
また,Google Document のような複数人による共同編集機能もあります。複数人で環境を揃えて同時共同執筆を行うことができるのは,クラウドならではのメリットでしょう。
自分が愛用しているのは,「ソースとコンパイル結果のセットを閲覧専用で提示する」機能です。「このソースをコンパイルするとこんな結果になりますよ」というのを見やすく示すことができます。
Overleaf による TikZ の展示例
自分はこの機能を,TikZ のソース例を示すのによく用いています。
- 素因数分解の可視化
- ヒルベルト曲線
- シェルピンスキー・ギャスケット
- コッホ雪片
- ケクレン(TikZ を用いた化学構造式描画パッケージである chemfig パッケージ を使用)
Overleaf で日本語を使用する
Overleaf は,現時点ではバックグラウンドで TeX Live 2014 が動いています。ということは,(u)pLaTeX や dvipdfmx も入っているわけで,日本語を用いた和文文書も作れるはずです。 ただし,Overleaf はデフォルトでは海外で主流の pdfLaTeX を使う設定になっているので,和文文書を作成するには多少設定が必要です。
公式のヘルプに Overleaf で pTeX を使う方法 の解説があるのですが,この方法では pLaTeX + dvipdf (≒ dvips + gs)という変換経路になります。日本で現在主流であろう,(u)pLaTeX + dvipdfmx の経路で作成するには,次のように設定する必要があります。
手順1:新規文書を作成して文書設定を行う
Overleaf にログインして,NEW PROJECT
ボタンを押し,Blank Paper
のテンプレートを選びます。
そして,右上の歯車アイコンをクリックして設定画面を出し,左下の設定項目を
- LaTeX Engine: LaTeX dvipdf
- Preview Format: PNG
と設定し,SAVE PROJECT SETTINGS
ボタンを押して保存します。
手順2:latexmkrc を作成する
左上の Add files...
ボタンを押し,Blank File
を選択して,新規ファイルを作成し,それに latexmkrc
というファイル名を付けます。
そして,内容として,次の内容を記載します。
pLaTeX + dvipdfmx を使用する場合
$latex = 'platex'; $bibtex = 'pbibtex'; $dvipdf = 'dvipdfmx %O -o %D %S'; $makeindex = 'mendex %O -o %D %S'; $pdf_mode = 3;
upLaTeX + dvipdfmx を使用する場合
$latex = 'uplatex'; $bibtex = 'upbibtex'; $dvipdf = 'dvipdfmx %O -o %D %S'; $makeindex = 'mendex -U %O -o %D %S'; $pdf_mode = 3;
手順3:IPAex フォントを埋め込む設定を行う
デフォルトでは,dvipdfmx の和文フォント埋め込み設定がなされていないため,フォント非埋め込みPDFが生成されてしまいます。そのため,Overleaf 上のプレビューでは,和文文字部分が豆腐に化けてしまいます。
(←和文フォントが非埋め込み)
(↑日本語が化けてしまう)
そこで,TeX Live 付属の IPAex フォントを埋め込むよう,pxchfon パッケージを用いて設定しておきます。プリアンブルに
\usepackage[ipaex]{pxchfon}
を加えておいてください。すると,Overleaf 上でも正しくプレビューできるようになります。
活用例:日本語の入った TikZ 図版を作成する
Overleaf を用いて TikZ 図版を作成する場合,LaTeX エンジンとしてデフォルトの pdfLaTeX を用い,文書クラスとして standalone クラスを用いるのが簡単です。これを用いると,余白がない図版単独の形のPDFが作成できます。先程の ケクレンの構造式 はそのように作成しています。
しかし,この方法の場合,
といった欠点があります。そこで,Overleaf で (u)pLaTeX + dvipdfmx + TikZ + preview パッケージ という組合せを用いて,「日本語入り・複数ページ対応」の TikZ 図版を作成してみましょう。
手順1:preview パッケージの dvipdfmx 用ドライバを準備
まず,上記の設定を行い,Overleaf 上で (u)pLaTeX + dvipdfmx の和文文書を作成します。
preview パッケージは,デフォルトでは dvipdfmx 用のドライバが用意されていませんので,ZRさんの記事 からリンクが張られている,prdvipdfmx.def を入手します。
そして,Overleaf 画面左上の Add files...
ボタンを押し,Upload from...
の Computer
を選択して, prdvipdfmx.def
をアップロードします。
手順2:preview パッケージの使用設定
プリアンブルを次のように設定します。
\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle} % upLaTeX 使用時は uplatex もドキュメントクラスオプションに加える \usepackage[ipaex]{pxchfon} \pagestyle{empty} \usepackage{tikz} \usepackage[dvipdfmx,active,tightpage]{preview} \PreviewEnvironment{tikzpicture} % tikzpicture 環境を切り出す \setlength\PreviewBorder{10pt} % 余白設定
これで,tikzpicture 環境のみを切り出した,日本語入りの複数ページ図版を作成することができます。
- サンプル:東大化学の設問数推移グラフ (pLaTeX + dvipdfmx + TikZ + preview パッケージ)
別の方法1:LuaTeX-ja を利用する
Overleaf に入っているのは TeX Live 2014 なので,新しい LuaTeX-ja も利用することができます。LuaTeX-ja を使えば,latexmkrc を使用することなく,より簡単に和文文書を作成することができます。
手順1:新規文書を作成して文書設定を行う
Overleaf にログインして,NEW PROJECT
ボタンを押し,Blank Paper
のテンプレートを選びます。
そして,右上の歯車アイコンをクリックして設定画面を出し,左下の設定項目を
- LaTeX Engine: LuaLaTeX
- Preview Format: PNG
と設定し,SAVE PROJECT SETTINGS
ボタンを押して保存します。
手順2: LuaTeX-ja を用いて和文フォント埋め込んだ和文文書を作成するための基本設定を行う
プリアンブルを次のように設定すると,IPAex フォントを埋め込んだ和文文書を LuaTeX-ja で作成することができます。
\documentclass{ltjsarticle} \usepackage[ipaex]{luatexja-preset}
また,LuaTeX-ja であれば,standalone クラスと日本語を共存させることも容易です。
- サンプル:2015年東大化学第3問に登場した図 (LuaTeX-ja + standalone クラス + TikZ + chemfig)
ただし,LuaTeX-ja はコンパイル速度が遅いため,Overleaf 上で実行すると,しばしば compile timeout
エラーを引き起こしやすいという欠点があります。compile timeout
エラーでコンパイルできない場合は,次の XeLaTeX を用いる案も検討するとよいでしょう。
別の方法2:XeLaTeX で日本語を使用する
文書の設定において,
- LaTeX Engine: XeLaTeX
- Preview Format: PNG
と設定し,プリアンブルを
\documentclass{bxjsarticle} \usepackage{zxjatype} \usepackage[ipa]{zxjafont}
とすれば,XeLaTeX を用いて日本語文書を作成することができます。
- サンプル:東大化学の設問数推移グラフ (XeLaTeX + bxjsarticle クラス + zxjatype + zxjafont + preview パッケージ)